2011-11-16

思い込み屋さん  NO 2754


 昨号で司会者について触れたが、今日は一人の女性司会者のことを書いておこう。

 彼女が大学を卒業して入社してきたのは随分前のことだが、今では司会者派遣会社の一員として活躍するに至っているので喜んでいる。

  入社してから数日後のこと、ある原稿を読んでみなさいと命じたら、信じられないぐらい酷かった。「大学で本を読まなかったの?」なんて厳しい言葉を浴びせ たが、自然に喋ることの重要性を説いたら理解したようで、その後は画期的に上達し、彼女独特の味のあるアナウンスが出来るようになった。

 そんな彼女には、ある短所があった。それは何でも勝手に思い込んでしまうことで、それが見事に表面化する出来事があった。

 ある時、ご仏縁に結ばれる北海道の同業者から電話があり、メールで送信して来た文章を録音して至急に送って欲しいとのこと。そこでプリントアウトした内容を確認してみると、それは娘さんを亡くされたお母さんの思いが切々と綴られた手紙の文章だった。

 彼女の声質と語り口調にぴったりと思い、すぐに収録しようと行動したのだが、声だけのテープを航空便で送ってもギリギリ間に合うという時間制約もあり、何とか対策がないのだろうかと思案をしたら、ある方法がふと浮かんできたのである。

 それは、弊社の音響システムを活用し、そこへ2台のデッキを組み合わせ、音楽と彼女の代読をCDかMDに録音し、それをメールで送信するという発想だった。

  事務所のいた彼女に、そんな提案をしたら、いきなり「そんなの不可能です」と否定され、いくら説明しても納得せず「無理です」と返されるばかり。頭にきた 私は、彼女の机の上で配線図まで描いたのだが、それでも「無理です」の一点張り。堪忍袋の緒が切れたところから、彼女を2階の音響システムのところへ伴 い、私の部屋にあったデッキを持参させ、言った通りの配線を命じた。

 心の中に強く思っていたのは、音楽をバックに喋らせること。そうす れば雰囲気がアップする効果が期待出来るが、ヘッドホン対応では自分の声が聞けない問題があって環境ダウンが生じてしまう。それらを一気に解決する方法 が、静かに音楽を流して彼女自身の声も聞かせながら録音すると、奥行きのある雰囲気が醸し出されるということ。やがて私の考えていた配線が試されることに なった。

 事務所から新しいCDを持って来させ、いよいよ音楽を流して実験を試みたところ大成功。「出来ますね!」と言った彼女に思わず<だから言っただろう!>と返したかったが耐え忍び、他のスタッフに本番だから誰も上がって来るなと命じて収録を進めた。

 CDは、見事に完成した。それをメール送信出来たのは言うまでもないが、依頼主である北海道の同業者の社長から「最高です!」との返信があった出来事だった。

  その後、彼女には「思い込み」から何回か慌てさせられたことがあった。一回は、お客様が持参された「越路吹雪」さんのCDで、ナレーション途中でオーバー ラップさせるための選曲番号を間違えられてゾッとしたり、次にはコンピューター制御された映像放映システムの登録ボタンを誤って触ってしまい、ナレーショ ンを始めてすぐに映像が固まった状態になって、アドリブでの時間調整を余儀なくされ参ったこともあった。  

 それらは、何とか帳尻を合 わせる機転で解決したが、始まる前に何度も「間違っていないな」と確認していたにも関わらず、本番になった場面で発覚するのだから恐ろしいではないか。い つも「大丈夫です。お任せください」と言っていた彼女、そんな「思い込み」が少なくなったことを祈りながら、益々の活躍と成長を願っている。
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