2018-10-30

NO 8355 短編小説 あの頃 ⑧

参りました水野は何れゴルフ場でラウンドする時に恥を掻かないようにルールブックを購入して読み込んでいるが、中には複雑なケースもあるのでちょっと恐怖感を抱いていたのだが、吉村が暖かい口調で次のように言った。

「ゴルフは自分自身が審判で、他人に優しく、自分に厳しく考えればよいし、例えば池やハザードのドロップ処置で2クラブレングスかワンクラブレングスか全て条文で憶えようと悪戦苦闘するけど、ペナルティが課せられる時は2クラブ、課せられない時はワンクラブと憶えたら簡単だよ」

「水野君さあ。この吉村だけどさあ、ゴルフについては技術も凄いけどルールやマナーについても専門的なことまで知っているから驚くよ。今から6年前、彼と初めてラウンドした時に教えられて参ったことがあった」

それは、マナーに関係する問題だが、グリーンの表面を傷つけないというようなプレイに直接関係することではなく、あまり気にしていないところに重要な落とし穴があると言うことだった。

「ハーフが終わって食事をしていた時のことだけど、『スコアカードを見せて』と言われてスコアの確認かなと思っていたら、そうではなく、『同伴競技者の名前の敬称が抜けている』
と指摘されたのよ。『さん』『MR』などを付けるべきと言うことでね、恥ずかしかったことを憶えているよ」

言われてみればそうである、目上の人や大切な人とラウンドして「呼び捨て」に名前を書いているのを目にされたらどう思われるかと考えるとゾッとする。ドラちゃんがその時に吉村に教えられたことはそれだけでなかった。

「メンバーの紹介でゴルフ場へ行った時、フロントで住所、氏名、電話番号などを記入するのだけど、その中にメンバーの名前を記入するようになっており、そこに敬称を添えれば本人もメンバーも人格点数がイメージアップするということだよ」

これは人格、人柄に関係することで、これらをドラちゃんに教えた吉村の凄さを改めて知った思いがした水野だった。

水野はドラちゃんが箸で教えてくれたグリップも採り入れ、スイングファーストという考え方に共感を抱いて実行しており、まだフルショット中心だが、何とか曲がらないボールが打てるように進歩していた。

水野の練習に吉村やドラちゃんが付き添ってくれたことがあった、曲がらないボールでクラブの番手通りの高さのボールが打てる状態に二人はびっくりし、揃って「いつの間にこんなに上達したんだと!」と驚嘆し、アプローチの練習方法を教えて、半月後にコースでラウンドしてみようと言うことになった。

それから10日ほど経った頃だった。水野がドラちゃん店に立ち寄ると、先客として金村がカウンターに座っており、水野の姿を目にすると「聞いたよ、吉村さんやドラちゃんが
びっくりするレベルに上達したらしいね」と言葉を掛けた。

「恥ずかしいなあ。フルショットはまあまあなんですけど、アプローチなどの短いボールが全く駄目で悩んでいるのです」

「軽トラック半分程度で上達したドラちゃんだけど、水野さんはこれまでにどの程度練習したの?」

「さあ、軽トラックの荷台の半分程度かなあ」

金村と水野の楽しそうなゴルフ談義が続いていると、顔馴染みになっている会計士が入店し、カウンターに座ると熱燗の日本酒を注文してから興味深いことを話し始めた。

昨日の日曜日に月例競技に出場したんだけど、成績の方は触れないでね。帰路の車の中んて聞いた話なんだけど。今月の初めにエチケット委員会やハンディキャップ委員会のメンバーが集まって会合を開き、ある人物のシングルハンデについて協議したそうだが、競技成績ポイントで議題になる対象になっていたし、本人の友人達からも『もう。シングルでは』なんて声も出ていたのだけど却下されてしまったと言うのよ」

大半のゴルフ倶楽部ではポイント制を設けて議題対象になって会合で決定されることになるが、ポイントは月例優勝20ポイント。2位で10ポイントなどとなっており、3か月間で更新されることが多く、一気に定められたポイント点数に到達しなければならず、シングルへの道は簡単なものではないのであった。


「ポイント達成なのに却下ってどうして?」

ドラちゃんが府に落ちない表情で質問した。周囲にいた人達が聞き耳を立てて会計士の言葉を待っている雰囲気の中、会計士は自分が注目されていることに快感を憶えているように得意げに喋り始めた。  続く

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