2018-11-01

NO 8358 短編小説 あの頃 ⑩

疲れたホール「最近のゴルフ場の昼食も変わって来ましたねえ。単品や定食などのセットメニューが中心だったのに、この前に行ったゴルフ場は面白くてね、バイキング形式になっていて驚いたけど、意外と歓迎する声が高かったよ」

ゴルフ場のクラブハウス内にあるレストランは、ゴルフ場の運営会社が自家営業していることが多いが、名門と呼ばれるクラブでは知られるホテルやレストランが入っていることもあり、そんなところにも格式を求める傾向もあったようだ。

「よ~し、こうなったら恥ずかしい体験談を皆さんに披露しよう」

場が盛り上がったのでご機嫌になったドラちゃんがそう言い、吉村のクラブへ初めて連れて行って貰った時のことを語り始めた。

吉村が入会しているゴルフ場は関東圏で3本の指に数えられる超名門で、メンバー同伴でしかラウンド出来ないし、男女の日本オープンが行われた歴史のある36ホールあるゴルフ場だった。

「前日の夜は嬉しくて一睡も出来なくてね。ゴルファーの憧れのクラブでラウンド出来ると考えただけで夢のように思っていたよ。キャディーマスター室に設置されてあるスコアカードを手に2階のレストランに上がったら、すでにメンバーの吉村さんがコーヒーを飲んでいた姿を今でもはっきりと憶えているよ。ガラス窓から朝日が眩しく差し込んでいてね、眩しい中に夢の実現を迎えて心が震えていたよ。

「そんな脚色ばった話はいらないよ。恥ずかしかった体験だけを教えてよ」

それは岩木の言葉だったが、周囲にいた全員が頷くような雰囲気になっていた。

「紅茶とトーストを注文してティータイムを過ごしたのだけど、一向に吉村さんが動く気配がないので『スタート時間は何時ですか?』と聞いたら『スタート時間は決まっていません。いつでもスタート出来ますよ』と言われてびっくり。続いて東コースのスコアカードに同伴競技者の名前を書き込みながら、『アウトからですか? インからですか?』と質問したら、『ゴルフはアウトコーススタートに決まっていますよ』と言われて再度びっくり。もう参って恥ずかしかったよ」

ドラちゃんが体験した恥ずかしいことの駄目押しはスタートティーグランドでの出来事だった。

「吉村さんか『ぼちぼち行きましょうか』。」と促されて東コースの1番のティーグランドに行ったら、すでにキャリーバックを積んだカートが来ており、若い美人のキャディーさんが待ってくれており、『おはようございます。よろしくお願いします』」と挨拶をしたら『どちらからですか?』と言われて自宅のある『「横浜からです』と答えたら、メンバーの吉村さんが「フルバックから行くよ」と言われたので衝撃だったよ」

それを聞いた会計士が「横浜からか!」と笑うと同時に店内が爆笑のひとときとなった。計算の一切ないやり取りでこんな落語みたいな出来事に発展するのだから面白い。しかし、ドラちゃんが体験したことは、そこにいた全ての人が誤ってしまうことであり、金村が「勉強になりました」と嫌に真摯な表情で畏まっていた姿も滑稽だった。

「よーし、私が昨年の秋に体験した驚きの出来事を話しましょう」

それは日本酒が回ってご機嫌になった会計士だった。顧問先の会コンペでの出来事だった。

「同伴競技者に初ラウンドの人がいてね。幹事の人からよろしくと頼まれていたのだけど、1番ホールが『パー5』でね、その人物のショットは見事なゴロでフェアウェーのセンターに行き、セカンドもゴロでの残り150ヤードの表示ポールのすぐ近くに転んだのだけど、そこから打った第3打がまたゴロで砲台になっているグリーンの方向へ向かったのよ。さて、他の3人がグリーンのオンしたところでその人物が奥側の斜面のところでボールを探している。みんなで探しても行方不明。しかしOBになったことは考えられない。でも見つからないのでまさかと思ってホールを覗いたら、そこに彼のボールが入っていたの。つまり、初ラウンドの初ホールでゴロを3回打ってイーグルになったという信じられない出来事だったよ」

今までに店内でゴルフの話題で盛り上がったことは何度かあったが、こんなに面白い話が出て来たのは初めてで、ゴルフを楽しむ人なら最高のひとときとなったと思われる。

そんな中、ドラちゃんが過去に吉村から教えられたという話を持ち出して来た。

「ゴルフを始めてしばらくした頃に吉村さんから教えを受けた中の一つなんだけど、『ゴルフをやるならニワトリ・西郷隆盛・銭形平次というニックネームで呼ばれないように』と指導されたんだよ」

それは興味深い話である。それらがゴルフとどうつながるのか想像しても分からない。会計士と岩木が「教えて!」と答えを急かせた。   続く
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